思い出は刃物

 

自死の予感がするのよ」

「このままだと、私、思い出に殺されるわ」

「本当は綺麗なまま取っておきたいのだけど」

「綺麗なままだと死んじゃいそうだから」

「汚すしかないわ」

「どうして私は」

「そうでもしないと生きられなかったあの時の自分のことは忘れて」

「自分のことを正当化するんだろう」

「まったく、ろくなもんじゃないわ」

「正しいことは楽だけど、一個も楽しくないわ」

「傷がある人のことを美しいと思うのに」

「自分だけは絶対に傷つきたくないのね」

「後悔ですら自分のものなのに」

「思い出を汚すのはいつだって自分なのに」

「あの時の真実とは違うのに」

「誰かのせいにしないと生きられないわ」